歴史ある自噴岩風呂の静謐【東山温泉 くつろぎ宿 新滝】
ある旅行誌の「足元湧出の温泉」特集でその名を見つけてから、泊まってみようと思っていた宿のひとつでした。いにしえの名残を留める岩風呂をはじめ、湯巡り三昧が叶います。
藩主の別荘だった宿
訪れたのは雪の積もるころ。会津若松での仕事を終えた私は、急いで近くのバス停からまちなか周遊バスに乗り、東山温泉へ向かいました。車なら会津若松駅から10分、バスでも30分ほどで温泉街の中ほどの「東山温泉駅」に到着します。
少し歩くと、温泉街の中央を流れる湯川の橋の向こうに「くつろぎ宿 新滝」がありました。東山温泉は湯川沿いに宿が点在していて、古くからの宿には「滝」や「瀧」の字が付いているのも特徴ですね。
新滝も歴史が古く、江戸時代は会津藩主松平氏の別荘だったそう。その後は宿として、竹久夢二や与謝野晶子ら数多くの文人墨客も逗留しています。
コンパクトに機能が揃う客室と、もうひとつの居場所
客室は一番リーズナブルなコンパクトツインをシングルで利用しました。占有面積は標準的な和室の半分ほどとのことですが、洗面台やトイレ、お茶コーナーなど必要なものが機能的に配されていて、ひとりにはとても広く感じます。
奥にはデスクと、ソファの置かれたくつろぎスペースも。ワーケーションにも利用できそうです。
「くつろぎ宿 新滝」には、ほかにもさまざまなタイプの客室が揃っています。和室12畳に和ベッドルームと広縁が付いた「和スイート」、和室10畳にツインベドルームが付いた「二間続きの和洋室」、スタンダードな「古民家風の和室」をはじめ、ほとんどの部屋にひとり旅でも利用ができるのは嬉しい限り。
客室とは別にもうひとつ、時間を多く過ごさせてもらった場所が、ロビーフロアにあるライブラリーラウンジです。
なにが嬉しいってフリーの飲み物の充実ぶり。コーヒー、紅茶、ハーブティーのほか、時間帯によっては日本酒や焼酎も一升瓶で置かれています。コーヒーを飲みながら会津の旅の本をめくったり、風呂上がりにキュッと地酒で喉を潤したり。こうしたくつろぎの居場所の存在の有無で、宿の印象は大きく変わってくるように思います。
朝を待ちわびて自噴の岩風呂へ
「くつろぎ宿 新滝」の温泉は全部で4か所。「わたり湯」と「猿の湯」には男女別でそれぞれに内湯と露天風呂が備わり、「千年の湯露天風呂」と「千年の湯岩風呂」の2か所は時間で男女入れ替えや貸し切り制になっています。
「千年の湯岩風呂」の女湯は朝。暖簾のかかる5時30分に浴室に向かうと、ほかに浴客はなく、静かにこの空間での時間を味わうことができました。
背後の大きな岩壁に守られるようなお風呂は、まるで洞窟の中にいるかのよう。奥の湯船はそのまま湯船の底が岩盤になっています。
2つある湯船のどちらも足元から湯がじんわりと染み出すように湧いています。湯温を一定にするための差し湯もされているので気づきにくいのですが、湯の澄んだ美しさがそれを物語っていました。
「千年の湯岩風呂」は日帰り入浴では利用できないため、この贅沢を味わえるのは宿泊者だけの特権です。
すべての湯を巡ったなかで、「千年の湯露天風呂」も好きなお風呂でした。巻き上げたすだれの下から眺めるのは、湯川の流れ。温泉に浸かりながら、真下をさらさらと過ぎゆく水の流れに目を奪われてしまいます。
私が泊まった冬は休止していたのですが、それ以外の季節は姉妹館の「くつろぎ宿 千代滝」のお風呂にも入ることができます。
会津の地ものにこだわる料理
朝食は2021年3月にリニューアルしたばかりだという「ダイニング會KAI」へ。川が見える窓際にはひとりやふたりで座れるカウンター席を用意するなど、ひとり客への配慮が感じられる造り。
朝食ビュッフェは、焼きたてふわふわのだし巻き玉子やしそ巻き味噌など、ごはんのお供になる素朴な和総菜が多く用意されていました。会津産コシヒカリのごはんが進みます。
今回は1泊朝食での利用でしたが、夕食の「創作会津郷土料理膳」には会津のおもてなし料理には欠かせない「小づゆ」などが登場。常時30種以上揃える会津の地酒とともに味わう夜もまたよいでしょう。
くつろぎ宿 新滝
福島県会津若松市東山町湯本川向222