箱根寄木細工の素材美。「界 箱根」で作って触れて体感する
温泉と民藝を愛するライターが綴る連載。今回は2025年8月13日にリニューアルオープンした星野リゾートの温泉旅館「界 箱根」で出会った露木木工所の箱根寄木細工の話。

「寄木細工の“ずく引き”体験ができます」。界 箱根のリニューアルオープンの資料にあったその言葉に気になった。
ずく引き?とすぐにイメージできなかったが、箱根寄木細工の代表的な技法で、いくつもの木片を組み合わせて模様を作った種木を、特殊なカンナで薄いシート状にスライスする工程のことだ。星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」では「ご当地楽」という土地の伝統工芸や地域文化を無料で楽しめるサービスを用意するが、それが界 箱根では「寄木細工のずく引き体験」なのだ。

「うまくやらないでください、ぜひ失敗してください」。ずく引き体験を監修した寄木細工職人の露木清高さんがそう声をかける。カンナを種木に押し当て、一定の力をかけながら引いていくと、種木の模様がずくに写し取られて出てくる。同時に木の芳しい香りがふわっと立ち上った。
1回目は途中で切れそうになるが、2回目はどうにかつながった。失敗してもいい。寄木細工が難しい技術で生み出されていると体感することが大事なのだ。
美しい模様が生まれる寄木細工職人・露木さんの工房へ

界 箱根から車で20分ほどの小田原市内にある露木さんの工房「露木木工所」を訪ねた。寄木細工に使うたくさんの木材に囲まれた仕事場。界 箱根のご当地楽ルームは、この工房の雰囲気をイメージしてデザインしたという。
カンナがけをして作った小さな部材を、接着剤を塗って寄せて模様を作っていく。ひとかたまりできたらそれをまたつなげて、連続する美しい模様が生み出される。

驚くのは、木は一切染めておらず、天然の木の色を活かしていることだ。写真は左から、ニガキ、神代カツラ、チャンチン、ミズキ、パープルハート、ホオノキ、モビンギ、カツラ、パドック、ウォールナット、ウルシ。現在は外国産の素材も含まれるが、「樹種の豊富な箱根だからこそ生まれたものなのです」と露木さんは言う。

さまざまな文様を描く種木たち。麻の葉や青海波などの伝統文様が基本になっているが、白と黒のモノトーン、近い色調のグラデーションで表現した模様が繊細で美しい。極細の黒や白の線でさえ、その色の木をはさんで描いている。

箱根寄木細工には、界 箱根でも体験できる種木を薄く削って箱や板に貼り付ける「ずく」と、種木をそのままろくろなどでくり抜いて加工する「むく」とがある。
写真は、むくの合子。ひし形の蓋付きの小物入れで、小さいサイズの中に詰まった細かな模様が愛おしい。本来無機質な幾何学模様だが、柔らかく温かみがあるように感じるのは、木材そのものの色と質感を活かしているからだろう。
界 箱根の箱根寄木細工がある風景

界 箱根では、随所で露木木工所の箱根寄木細工に出会える。リフレクションテーブルに湯坂山の四季が映り込むロビーは、ずくをアクリル板ではさんだライトや、端材を使ったオブジェなどが迎える。

市松模様がかわいいルームキーも露木さんのオリジナル。やさしく握って木のぬくもりを感じながら大浴場や館内を巡って欲しいとの思いから、少し大きめの円形に。

各客室には、鮮やかな色彩のずくを貼った受け皿にのせてお菓子を用意。ほかにも茶筒やコースターなどが揃い、暮らしに取り入れるヒントがいっぱい。

リニューアルで誕生した最大4名まで泊まれる客室「箱根ごごちスイート」。ソファとデスクとで目線が異なる湯坂山の景色を楽しみつつ、寄木細工のオセロに興じてみたり。

須雲川に近い地下1階にある大浴場の半露天風呂からは絵のような景色を。泉質はナトリウム・塩化物泉。塩分が肌をコーティングしてくれるので、温まりが持続する。







