笹野一刀彫のお鷹ポッポと米沢・白布温泉
温泉と民藝を愛するライターが綴る連載第1回は、鷹が見つけた温泉地で出会った、勇壮な鷹の郷土玩具の話。
鋭い眼光と止まり木をつかむ力強い爪。そして繊細に丸まった羽の美しさ。勇ましくも、その表情にはどこか素朴な温かみを感じさせる。
山形県米沢市の笹野という地区だけに伝承されている笹野一刀彫の「お鷹ポッポ」という郷土玩具である。
材料は地元でとれるコシアブラの木。それを中華包丁のようなサルキリという大きな刃物1本で形にしていく。弾力性に富んだ加工のしやすい木だから、この優美な羽の表現が完成する。
笹野一刀彫は千数百年の歴史があり、技法はこの地方に住んでいたアイヌ民族から伝わったものだと言われている。北海道のウポポイを取材で訪れたとき、「イナウ」という木の棒を削ってつくった祭具があったが、木を削り取らずに残す表現はとても似ている。お鷹ポッポの「ポッポ」はアイヌ語で玩具を指す。
笹野一刀彫もアイヌのイナウのように信仰玩具として興り、のちに上杉十代藩主の鷹山公が、豪雪に閉ざされる冬の副業として推奨して広まった。鷹山の「鷹」の字が含まれていることで気に入り、魔除けとして飾ることをすすめたと言われている。また「禄高を増す」と言われ、今の言葉で言うと出世や商売繁盛の縁起物としても親しまれている。
私が笹野一刀彫に出会ったのは、米沢八湯のひとつ、白布温泉の土産屋だった。鷹のほかにも、ニワトリやフクロウをモチーフにした笹野一刀彫が並んでいて、縁起のよいエンジュの木をつかったものなどもあった。
白布温泉は鎌倉末期の開湯で、白い斑点のある鷹が湯に浸かり、傷を癒していたという逸話が残っている。なにかと鷹にゆかりのある土地だ。
白布といえば、中屋旅館、東屋旅館、西屋旅館の老舗の三軒が有名だ。かつては三軒並んでみな茅葺き屋根の建物だったが、今は西屋のみとなっている。
裏山の森の中に自然湧出の源泉を引き込み、豪快に湯船に注ぐ「湯滝」が名物で、西屋と東屋にある。泉質はカルシウム-硫酸塩温泉。湯量がとにかく豊富で、ドバドバと轟音立てながら湯滝から注がれる湯が、あっという間に湯船からあふれていく。
かつて東屋と西屋の間に本館があった中屋。現在は温泉街の外れにある「中屋別館 不動閣」のみの営業になっている。
「中屋別館 不動閣」といえば、まるでプールのような細長い浴槽が渓谷に沿ってある「オリンピック風呂」が名物だが、小ぢんまりとした露天風呂も風情があってよい。渓谷を見下ろす景色を独り占めにした。
白布温泉周辺で笹野一刀彫が買える店
・かもしかや 太田酒店
山形県米沢市関1514-3
・米沢駅銘品館
山形県米沢市駅前1-1-43