VOL.01 羅臼岳と岩尾別温泉
羅臼岳 標高1661m 日本百名山
羅臼岳は知床半島の最高峰。山麓の知床五湖や知床横断道路の知床峠から望む円錐形の山容は、知床半島の盟主と呼ぶにふさわしい秀麗な姿が印象的だ。
この山に最初に登ったのは、大学でワンダーフォーゲルに入部した1年目、1966年の夏合宿だった。羅臼から海岸沿いを歩き、知床沼から先は登山道の無いハイマツのジャングルをかき分け、知床岬まで1週間を費やす悪戦苦闘の大縦走。世界自然遺産に登録される前は、こんな無謀とも言える山行が許された時代だった。
それから49年後の2015年夏、羅臼に数日滞在した旅の途中に登った。悪性リンパ腫を患った4年後のことで、いわば本格的な登山に復帰した最初の山である。
このときはまだ「日本百名山」完登は無論、「温泉百名山」のことなどまったく頭になく、闘病後の体力と気力がどこまで持つかを試すのと、青春の思い出をたどるのが目的の登山だった。
岩尾別温泉
その登山口にあるのが岩尾別温泉である。大学時代の合宿後にここに下山して汗を流したと思うが、2週間に及ぶ合宿終了に安堵したことは覚えていても、温泉に入ったことはまったく記憶にない。
岩尾別温泉は知床半島外れの秘湯という印象だが、実際には一軒宿の「ホテル地の涯」は鉄筋3階建ての近代的な建物なので、そのイメージは覆されるだろう。
何度か訪れているが、羅臼岳登山のあと、2017年に突然1年間休業し、廃業が取り沙汰されたが、翌年に経営者が変わって再開された。そこで、「温泉百名山」に取り上げるため、2020年9月の雄阿寒岳遠征の際に確認に行った。
駐車場外れの斜面に3段になった無料露天風呂「三段の湯」と、少し離れた河畔にこぢんまりとした「滝見風呂」があり、これが人気なのだが、この時は湯が入っていなかった。どうやら給湯の栓を開けるのを失念していたようだ。
館内の混浴露天風呂に行く通路の途中にあった丸太風呂は撤去されていたが、男女別内湯と混浴の露天岩風呂(湯浴み着貸与になっていた)は変わっていないように思えた。
露天風呂には札幌から羅臼岳登山に来たという先客のカップルがいて、まだ13時過ぎだというのに、もう羅臼岳から下山して来たという。驚くべき健脚である。それが縁で、帰京してからも交流していたが、翌年の夏にも北海道遠征した際、なんとトムラウシ山と十勝岳に同行してくれることになった。しかも有休を追加して5日間も。この出会いがあって、岩尾別温泉は今まで以上に忘れられない温泉になった。
ただし、懸念材料が発生した。経営を変わった「しれとこ村」は、実は悲惨な遭難事故を起こした知床遊覧船と同じ会社なのだ。賠償金の支払い等で再び売却される可能性大で、今後の動向に注視しなければならなくなった。
岩尾別温泉(いわおべつおんせん)ホテル地の涯
☏0152-24-2331◆泉質=ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉◆源泉温度=63.3度 4月下旬~11月上旬の営業。◆電車/JR釧網本線知床斜里駅からバス50分のウトロ温泉バスターミナル下車、タクシーで20分(送迎あり、要予約)◆車/旭川紋別自動車道遠軽ICから約3時間、女満別空港から約2時間30分