高級宿の趣とぬる湯に癒されて 川治温泉 坂聖・日光
栃木県日光市の川治温泉に安くてモダンな宿がある。そんな噂を耳にし、気になっていた「坂聖・日光」。期待通り、いや期待以上に素敵な宿でした。
歴史ある宿を受け継ぎ開業
野岩鉄道の川治湯元駅で下車。野岩鉄道ってどこのローカル線?とお思いでしょうが、東武線が直通運行していますので、東京から特急リバティで1本で来れます。
駅からは歩いて6分。温泉街の入り口にあたる場所に「坂聖・日光」ありました。

外観からは黒塀に囲まれていて中を伺い知ることはできません。ゆっくりと玄関へ歩みを進めます。

よく磨かれた木の床、雰囲気のある間接照明、そして空間に馴染む家具やアート。館内に入ると素敵なロビーが迎えてくれました。
窓からは池のある中庭が見えます。赤く色づいたモミジ(芽吹きのときも葉が赤くなる品種だそうで)としだれ桜が咲いていて、まるで春と秋が同時にやってきたかのような美しさを奏でていました。

坂聖・日光の本格的なオープンは2021年4月。古くから営業してきた宿を受け継ぎ、手を入れ過ぎることなく、必要なところだけ改装を加えて開業したそうです。
館内の説明を受けながら、客室棟の奥のエレベーターまでスタッフさんに案内いただきました。案内はそこまで。必要以上のサービスがないのも好感が持てます。

客室は標準の12畳和室にしました。あらかじめ布団が用意されていますが、それでもひとりには有り余る広さです。
窓際には赤いじゅうたんの敷かれた広縁のようなスペースと掘りごたつ。山あいの温泉地ですので春や秋も朝晩は冷えますから、こたつが嬉しいです。
滔々と溢れる「ぬる湯」に時間を忘れて

内湯の縁をすべるように流れてゆく湯の豊富さに、まず感動してしまいました。
身を沈めるといつまでも浸かっていられるのではと思うほど。源泉温度が低めのため加温されていますが、湯船の中は不感温度帯の少し上ぐらいの心地よい温度に設定されています。

露天風呂からは裏手にある温泉神社の杉木立が借景になっていて癒されます。露天風呂はやや熱め。みなさん好みの温度の湯船で、それぞれに湯を楽しんでいました。

翌朝には男女の湯が入れ替わり、大きさの異なる2つの浴場に入ることができます。こちらは露天風呂がぬるめになっていました。
脱衣所の入り口には、自分用のスリッパに印が付けられるようピンチが置かれていました。細かいことですが、こうした小さな心遣いが気持ちのよい滞在につながります。
ほどよい量が嬉しい夕食
料理は朝夕とも食事処でいただきます。客室は20部屋ありますが、1日の予約数を14組ぐらいまで制限しているそう。ひとり客も多く、テーブル間隔も広く取られているので、密になることがありません。

最近、旅館の料理が食べきれなくて悔しい思いをすることが多いのですが、坂聖・日光は品数や量がちょうどよいものでした。日光市ですので、お造りには湯葉刺し、そして優しいお出汁の味を含む巻き湯葉の煮物が。県内の地酒も豊富に揃えており、自分のペースでゆっくり楽しむことができます。

朝食は窓際に席を設けてくれました。中庭を眺めながらしみじみといただきます。写真を撮り終えて食べ始めたところ、焼きたての卵焼きが運ばれてきました。これがまた優しいお味で心に沁みます。

1日滞在して思うのは、庭も建物も歴史を重ねてきたからこその落ち着きが醸し出されているということ。これからも大切に歴史を受け継いでいって欲しいものです。
最後に「坂聖(さかひじり)」という宿名ですが、それには次のような意味が込められています。「坂」には上り坂や下り坂などの言葉があり、時に人生と重ねてたとえられます。「聖」は清らか、尊い、誠実などの意味があります。誠心誠意、真心を込めた接客で、さまざまな坂を生きているゲストの安らぎの時間と清らかな心でいられる旅のひとときを提供したい。まさにそのような時間を味わえた滞在でした。

東京までは特急リバティで約2時間30分。帰路を急がないなら、静かな温泉街を散策してみましょう。
温泉街の中心を流れる男鹿川の清らかさ。その傍らには、共同浴場の「薬師の湯」があります。源泉そのままの「ぬる湯」が楽しめる混浴露天風呂と、地元の人にも人気の男女別の内湯(こちらは加温)があります。清らかな自然に癒されつつ、もうひとっ風呂。心と肌に栄養をたっぷりと貯えたら、それぞれの日常へと戻りましょう。
坂聖・日光
栃木県日光市川治温泉川治63