修善寺温泉と家族の手作り駅弁「武士のあじ寿司」に心の温もりを感じる旅!

温泉には「温泉法」による定義があります。地中から湧出した時の温度が、25℃以上あれば温泉。また、25℃未満でも19項目のうち、いずれか1つ以上が規定量含まれていれば、「温泉」と呼ぶことが出来ます。しかし、駅弁の定義は、非常に「曖昧」です。狭義では、JR線の駅で販売される「駅弁マーク」が付いた弁当となりますが、私鉄の駅にも「駅弁」があります。今回は、私鉄の駅で販売される人気の寿司駅弁を求めて、JRから伊豆箱根鉄道に直通する特急「踊り子」に揺られて、修善寺温泉を訪ねました。
●「踊り子」で行く、ダブル世界遺産と修善寺温泉!

東京駅を発車した「踊り子」号は、熱海駅で伊豆急下田行と修善寺行に分かれます。修善寺行は、グリーン車の無い5両編成ですが、天候に恵まれると、車窓から「富士山」を見ることが出来ます。さらに、三島駅で東海道本線から分かれて伊豆箱根鉄道駿豆線に入り、伊豆長岡駅で途中下車すれば、日本の近代化の礎となった韮山反射炉までは、のんびり歩いても20分あまり。展望台へ登れば、静岡らしい茶畑のなかに、富士山と韮山反射炉で“ダブル世界遺産”を望めます。

修善寺駅から路線バスでおよそ10分。修善寺温泉バス停で下りて少し歩くと、目の前に温泉街の中心を流れる桂川と、河原に湧く修善寺温泉・発祥の湯とされる「独鈷(とっこ)の湯」が見えてきました。このお湯は、大同2(807)年、修善寺を訪れた空海が、桂川で病気の父親の身体を洗う少年の心に打たれて、持っていた仏具(独鈷杵)で川の岩を打ち、霊泉を湧き出させたといわれ、修善寺温泉のシンボル的な存在です。現在は見学のみで、入浴や足湯の利用はできません。
●新井旅館「天平の湯」でのんびり!

今回は独鈷の湯近くにある「国の登録文化財の宿 新井旅館」の日帰り入浴プランを楽しみました。新井旅館といえば、何といっても「天平の湯(天平大浴堂)」。昭和9(1934)年築といいますから、今年(2024年)で90年の歴史を誇ります。台湾から運んだ檜を使った総檜造りが時代を感じさせ、 浴槽の縁は伊豆石を刻み、20人がかりでも1日15cmしか動かせない巨大な柱石を据えたそう。歴史ある石風呂ほど、自分の背中にフィットする箇所を探すのが、本当に楽しい時間ですよね。

「天平の湯」に注がれているのは、60.4℃、ph8.6、成分総計572mg/kgのアルカリ性単純温泉。修善寺温泉は集中管理方式の混合泉ですが、新井旅館のお風呂はかけ流しにされており、ほのかに感じられる湯の香が癒しを感じさせてくれます。じつは筆者は、人生で初めての温泉の記憶が、4歳の頃、家族や親族と一緒に訪れた修善寺温泉でした。年齢を重ねて、改めて訪れることで、“温泉の楽しみ”を知った原点に戻ることが出来ました。
●家族の温もりが隠し味!修善寺駅弁「武士のあじ寿司」

さて、修善寺温泉の旅の締めくくりは、修善寺の駅弁です。始発の特急「踊り子」に乗車する前に買い求めたいのが、舞寿しが製造する「武士(たけし)のあじ寿司」(1500円)。お店は修善寺駅の改札脇にあり、駅前の調理場から出来立てが運び込まれます。舞寿しは元々、修善寺駅前に合った寿司屋ですが、約半世紀前、当時の修善寺駅長の方からの声掛けで、「駅弁」を製造・販売するようになりました。ちなみに「武士(たけし)の・・・」という冠は、お店のご主人の苗字なんです。

【おしながき】
・酢飯 ごま 桜葉
・アジの酢〆
・生姜
・ガリ
・天城産わさび
・レモン

沼津港に揚がったアジを手作業で1本1本骨を抜いて、酢でまろやかにしめ、食べやすい大きさに切って、酢飯の上に盛り付けられて出来る「武士のあじ寿司」。酢の匂いのなかに、ふんわりと桜餅のような香りがするのは、アジの下に桜の葉っぱが敷かれているからです。西伊豆・松崎は、日本一の“桜の葉”の生産地。沼津のアジ、天城のわさびと共に、地元の味が小箱にギュッと詰まっています。家族みんなで手作りしてできるあじ寿司は、家族の温もりも大事な隠し味なのです。

東京~修善寺間は、特急「踊り子」で2時間あまり。このほか、東海道新幹線と伊豆箱根鉄道の普通列車を乗り継ぐと、最速1時間半ほどで移動することも出来ます。ただ、在来線経由の場合、交通系ICカードは熱海より先に乗り越すと精算が必要になるほか、駿豆線が交通系ICカードに対応していないため、久しぶりに“紙のきっぷ”の出番となりそう。このあたりのノスタルジーも含め、のんびりと旅を楽しみたい修善寺温泉旅です。