藍染・杉葉線香、伝統を進化させて
心うるおす安来の手仕事とさぎの湯温泉の旅、2日目。
さぎの湯温泉・さぎの湯荘の大浴場で朝湯。湯のやわらかさを実感できる温泉と、山城・月山富田城へと続く山並みの風景に心癒されます。含弱放射能-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉の源泉かけ流しで、ぐっすり眠って肌もつやつや。
蔵の離れへ続く庭を眺める食事処。エテガレイの干物や湯豆腐が美味しくてほっこりする朝ごはんでした。出雲や松江のエリアは「庭」を大切にする文化があり、家を建てる時も建屋と庭の敷地は同等にするなど「庭」はその家の品格を表すともいわれます。
さて、今日も安来の手仕事をめぐります。
藍染と広瀬絣を継承する天野紺屋
天野紺屋の五代目・天野尚さんの手。
明治3年に創業し140年余り続く糸染め専門の紺屋を継承し、青蛙の名で型染め作家としても活躍しています。
天野尚さんは、祖父から継承した「割建て」の染め色を大切にしています。藍の原料である「蒅(すくも)」という植物の葉を加工させたものに1割ほど「インジゴピュア」というジーンズなどの染料を入れて藍液を仕立てます。
かつて、残り1割も蒅を原料としたら人間国宝に推薦するという話があった際に「この色がいいんだ」と、おじいさまは断ったという逸話をお聞きしました。この「割建て」の技法こそ地域の文化であり、天野さんもこの色が大好きなのだと。
わたしも、天野紺屋の「力強さ」と「優しい風合い」をあわせもつ独特の藍染めの色に魅せられて、安来を訪れる度に立ち寄っています。
店先では天野さんの型染めの作品を使った小物や手ぬぐいなどを購入できます。1点ものも多いので出会った時が買い時!
天野紺屋では、伝統の広瀬絣も継承、お父さんの天野融さんが手織りの広瀬絣と機械織の広瀬木綿をつくっています。数年前から融さんも藍染の道へ加わり、伝統を守りながら、藍染をスタイリッシュな世界へと進化させています。
民藝の世界で味わう割子そば「志ばらく」
お昼ごはんは、民藝そば・志ばらくへ。
先々代が安来生まれの河井寛次郎さんのアドバイスを受けて大正時代の建物を改装して蕎麦屋を開いたそうです。
志ばらく名物割子いもかけ蕎麦(右)は一杯330円、割子そば280円、平均的な1人前は3~4杯だが、1杯ずつ好きな量を注文できるのがうれしい。
野菜がザクザクのかき揚げ660円を追加して、割子蕎麦2枚でわたしはお昼にちょうどいい感じ。冬の寒い時期は「釜上そば」も人気。河井寛次郎が書いた、出雲の冬と釜揚そばの書を読んでいると、つい「やっぱり釜上そばも」と注文したくなります。
天然100%の杉葉線香を親子で伝承
今回の旅で、ぜひとも立ち寄りたかったのが、100年以上4代にわたり親子で杉葉線香を伝承する「内田線香店」。
国産の杉の葉を主原料として香料を一切加えない天然のもので手作りしているのはもう、全国に数軒しか残っていないとか。
杉葉線香は母と2人の娘さんが力を合わせて手作りしています。まず、杉の葉を粉にしたものを、水と植物粉の糊じっくり時間をかけて練り上げます。
それを独自の機械に投入すると・・・。
にゅーっと細い麺のようになって出てきます。その繊細な原料をお母さんの内田貴子さんが、オリジナルの板でしゅっとすくい取ります。
ここからは、娘さん2人が分業。折れないようにちぎれないように、曲がらないように、長い板へと並べ、線香のサイズにカット。
気温や湿度などに注意を払い、絶妙の経験で乾燥させて完成。
茶色の方が、無着色・無香料。緑色は無香料・天然色素で色付けのみを行っています。天然の杉の葉で作る線香は、自然の杉の優しい香り。「今までのどがつらくてお線香を焚くことができなかったけど、杉葉線香にであってご先祖の供養ができた」など、アレルギーや喘息に悩む方でものどが痛くなりにくいと評判を呼び、近年全国から注文が殺到。
母娘で紡ぐ杉葉線香を、家に帰ってさっそくつけてみると、ほっこり優しい森の香りがしました。