昔の湯治と、今の湯治 – 温泉会議
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『現代湯治』を複数のメンバーが語り合うように記事を執筆します。温泉でストレスを放電、心をふわりと軽く。ひとりでもふらりと行ける温泉宿の毎日をのぞいてみませんか。

昔の湯治と、今の湯治

若旦那

湯治文化は日本全国、多種多様なあり方があり、時とともに変化をしていることと思います。

ここ栃尾又温泉の湯治の在り方も、今と昔では変化があります。

例えば、入浴の楽しみ方。先々代の女将の時代60~100年程前の栃尾又温泉では、お風呂に入りながら歌を歌ったり、詩を読んだりして、長湯を楽しんだ時代があったそうです。

栃尾又温泉には、栃尾又小唄、栃尾又音頭、といった歌が残っていたりします。一説によれば当時のお客様達が、入浴の際に、自然と生まれていったそうです。もちろん、形として残すときには、宿の人が編集、記録などしたのだと推察されますが。当時の人々の湯治の楽しみ方の名残ですね。

昔のお風呂は、お風呂とお風呂の間に壁一枚、天井付近は筒抜けの作りでした。今でも銭湯などで見かけますね。そういった作りですので、音も筒抜け、男湯から女湯へ「送り詩」を送り、それを受けた女湯から「返し詩」を返す。そしてそれが、延々と続く。なんてこともあったとか。

昔の湯治場というのは、現代における一種のリゾート的、あるいは社交場的な意味合いも含まれていた、と考えられます。今でこそ、日本は娯楽に溢れかえっていますが、400年あるいは600年前の日本を想像してください。娯楽など、そうあるものではありません。(と、推察されます)昼間には田を耕し、冬に備え、冬がくればじっと備蓄した食料で春を待つ。生きることだけでも大変な時代。スマホも無ければ、レジャー施設もない。本だって、とても希少なものだったことでしょう。年に数度の、温泉場への湯治は、民衆にとっては、心身共にリラックスできる場所として認識されていたのでは、と推測されます。栃尾又温泉にも、弓道場や、相撲場所なんかもあったとのことです。

ぎゅうぎゅう詰めのお風呂

余談ですが、父曰く、「ぎゅうぎゅう詰めでお風呂に入ることはざらで、ちょっとでも隙間があれば、人がグイグイと入ってきたな。それが普通だった。」とのこと。

お風呂のマナーや、スタイルも時代と共に変わっているのですね。ほんの100年たたない内に。

時を戻します・・・・

2022年現在では、ぎゅうぎゅう詰めでお風呂に入ることもありません。男湯女湯で「送り詩」「返し詩」を謳うこともありません。

近年は、静かに、ゆったりと、湯に身をゆだねることが、湯治というものになりつつあります。というか、なりました。

娯楽的な要素が多様になり、湯治場にはそういった要素を求めなくなりました。また、「医療的な意味合いを含む湯治」も少なくなりつつあります。

遊ぶ時はレジャー施設に行きますし、病気や怪我は病院へ行きます。細分化、最適化が進む時代なのです。

そんな中、残った、本質的な湯治場の価値が、「癒す」ということなのでしょう。「癒す」という言葉を敢えて使いますが、なかなか言葉に形容できない感覚にも思います。

病気でもない、怪我をしているわけでもない、精神科で心の病だと言われているわけでもない、とてつもない不幸が人生で降りかかってきたわけでもない。

でも、なんか調子悪いな、疲れたな。

そんなときに、ふと休みたい、落ち着きたい、それが、現代の湯治場に求められていることではないかと考えます。

あえて言葉にすれば、すごくシンプルです。しかし、人それぞれ、実際には言葉にならない、言語化できないものであると、お察しします。そして、時代ごとに湯治場に求められるものも、その時代を生きる人の意志によって、また象られていくものと思います。

自分が生きている間に、またこれからどんな変化が訪れるのか、楽しみでもあります。ゆっくりと、観測できればと思うこの頃。

星宗兵
若旦那
400年続く湯治宿(新潟県・栃尾又温泉 自在館)の若旦那、趣味は野球・スキー、ゴリゴリの体育会系、暇があれば山遊び。温泉が湧き続ける限りこの里山を守りたい。
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