連載にあたって「温泉百名山」選定登山の試みについて

温泉の取材で白山麓を訪ねた2016年6月、ふと思い立って白山に登ったのが「日本百名山」完登を志したきっかけだった。それまで多くの山に登ってはいたが、「日本百名山」を意識したことはなかった。それが、白山であらためて山の魅力に触れ、登り残した「日本百名山」を数えてみたところ、残り41座。当時69歳、ならば翌年の2017年、古稀記念の目標として完登を目指してみよう、と思い至ったわけである。
2011年に発症した悪性リンパ腫の抗がん剤治療で痛めつけられた体力と気力を奮い立たせる、という側面も大きかった。
2017年9月、古稀記念の目標とした「日本百名山」完登を達成したが、そこで意外にも温泉がない(温泉の記述なしも含む)名山が多いことに気づいた。ならば、登山口周辺や山中に名湯のない「日本百名山」を除外し、代わって「日本百名山」に選ばれなかった名湯を基点として登れる名山を加えた100座を選定すること、それを次の目標とした。
この「温泉百名山」選定登山に行きつくことは、温泉と山を愛する筆者としては必然だったように思う。
しかし、「温泉百名山」選定登山に取り組む前の2018年4月に脊柱管狭窄症の手術し、7月に復帰。また、達成目前の2020年9月に膝を痛めてその年の登山を断念し、翌2021年1月に左変形性膝関節症の手術を受けることになる。そのたびに必死のリハビリで克服し、2021年10月、ようやくにして4年がかりの選定登山を完結することができた。

現在、2022年秋の刊行を目指して鋭意執筆中。この1冊が、筆者と同様に病と闘いつつ登山復帰を希求する同好の士に、病を克服して「ゆっくりでも登っていれば、きっと山頂に立てる」という、復帰へのエールになれば、と願っている。
まとめようとしている書籍では、紙数の関係で書き切れないことがたくさんある。特に選定登山に重きを置いた内容になるので、温泉についてはほとんどさわりだけになってしまった。そこで、この「温泉会議」の連載に当たっては、温泉についてもう少し突っ込んだ記述や取材中でのエピソード等を主体に、「温泉百名山」取材余話のタイトルで書かせていただくことにした。
さて。第一話へと書き進めていこう。
2022年5月
温泉紀行ライター 飯出敏夫